性同一性障害による戸籍名の変更  【 ま と め 】

5.ま と め

 性同一性障害による改名を申し立てるに際しては、改名したい新たな名の使用期間の長短により「永年使用」を理由に申し立てるか、「性同一性障害による改名」を理由に申し立てを行うのかを見極める必要があるようです。

 私が改名の審判を申し立てたときの審問に際して、審判官はしきりに新たな名の使用期間を気にしていました。なぜならば、「性同一性障害による改名」を理由に申立を行うと、審判官は性同一性障害であること、ある程度の使用期間(概ね2〜3年程度)があることの2点を審理する必要があり、使用期間が相当の長期(概ね5年以上)にわたっているならば「永年使用」を理由に(性同一性障害とは関係なく)改名の許可が出せるため、審判官は「永年使用」に拘っているように感じられました。相当期間の使用実績があるならば、「性同一性障害による改名」よりも「永年使用」を理由に申立を行うことも選択肢の一つかもしれません。

 なお、「性同一性障害による改名」の現在の状況について書き加えると、特例法が施行されてからは戸籍名の変更と性別の変更とを同時に申し立てる事例が多くなっており、「性同一性障害による改名」を理由とした戸籍名の変更申し立てについては、その名の使用期間が比較的短い場合でも許可が出される傾向があるようです。

 家庭裁判所が名の変更を許可するかどうかは、「正当な事由」があると認めた場合にのみ限られ、申し立てられた事案についてそれぞれ個別に家庭裁判所が判断を行います。
 したがって、名を変えなければ不利益を被るかどうか人それぞれに条件が異なるため、同じような条件でも改名が認められないこともあり得ます。
 また、審判に際して必要となる関係書類の誠意ある提出や問い合わせへの対応、審問の際における立ち居振る舞い、言葉遣いなどにも気を付けて真摯な気持ちで応じることが大切であると思います。

 以上、戸籍上の名の変更について述べてきましたが、性同一性障害をかかえる人々にとって本来あるべき性に相応しい名前に改名することは、リアル・ライフ・テストを円滑にして性の壁を少なからず低くすることができる有意義な方法であると思います。

 戸籍の名を変更できても戸籍に記載されている続柄(性別)は従前のままです。本人の気持ちとは一切関係なく法制度として性別による区別が存在しており、この性別による区別を乗り越えるためには戸籍の取扱いの変更(性別変更)の手続を行う必要があります。

 次章では、戸籍の取扱いの変更(性別変更)の手続きについて述べたいと思います。


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